原爆ドーム・世界遺産登録への歩み

  中区大手町の原爆ドーム(竣工時・広島県物産陳列館)が、1996(平成8)年世界遺産登録されることになりました。その歩みについてこの頁で取り上げました。
原爆ドームが世界遺産になっていることを(わたしは)何となく知ってはいましたが、世界文化遺産に登録された歩みについてはほとんど知らないといってもいいもので、今(2004年)回調べてみたのです。
原爆ドーム。Hiroshima Peace Memorial (Genbaku Dome)
文化遺産としての登録日:1996(平成8)年12月7日
参考にした図書 07.05.27更新  04.05.25裕・追加編集
登録基準:(vi) 顕著で普遍的な価値をもつ出来事、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連があること。(極めて例外的な場合で、かつ他の基準と関連している場合のみ適用)
登録経緯: 1996(平成8)年12月5日(日本時間6日未明)メキシコ・メリダ市(ユカタン半島の古代遺跡で有名)で開催された第20回ユネスコ世界遺産委員会で、21ヶ国参加の中、米国(不支持)中国(賛否保留)を除いた国々からの発言はなく(=賛成をえて)、ユネスコ世界文化遺産リストに登録されることが決定しました。
ユネスコ世界遺産委員会は原爆ドームを(戦争関連施設としては)「アウシュビツツ強制連行収容所(1979年登録)」に次いで世界遺産に登録することを決定しました。
米国
原爆ドームの指定には最後まで不支持(反対)していました。
審議の過程で「戦争関連施設は遺産リストに含めるべきでない」と表明しました。
中国
第2次世界大戦での日本国の加害責任に触れ「我々は今回の決定から外れる」と発言しました。
1996年(当時の)
平岡敬市長の談話:
「原爆ドームが人類史上最初の原子爆弾による被爆の惨禍を伝える“歴史の証人”であると国際的に認められたことは意義深い。人間の過ち、歴史の光と影をみようとするのは人類の進歩だと思う。
(米国や中国が登録に賛成しなかったことは)核兵器の使用を認める論理は許してはならないが、日本の加害も認識せよという警告は真摯に受け止める。
人類共有の遺産と認めた国際世論をバネに核兵器の廃絶と人類の平和を求める誓いのシンボルとして世界遺産に登録されたことを広く内外に紹介するとともに、中長期な観点からふさわしい景観形成を図り保存管理に適切な措置をとっていきたい」と述べたそうです。
アウシュビッツは独逸が犯した「人類に対する犯罪」の象徴、米国がナチスを潰すとする戦争の大義でもあったのでしょうが、原爆ドームは民主主義のリーダーを自負する米国が犯した‘非戦闘員の大量殺戮’の象徴でもあり、アウシュビッツと同列に扱われることで米国が犯した過ちを人々に思い出させる事から反対したのではと(わたしは)推測しています。
「原爆ドーム世界遺産登録」への歩み
1972 昭和47年 ユネスコ総会で世界遺産条約採択されました。
1992 平成4年6月 政府同条約批准。
9月 広島市議会世界遺産推薦リストに原爆ドームを加えるように求める(宮沢喜一首相への)意見書を採択。
1993 平成5年1月 平岡敬広島市長が国に推薦を要望。
文化庁は「原爆ドームは文化財として年代が新し過ぎる(文化財対象外)」と主張、推薦を門前払いしようとしました。
5月 連合広島の呼びかけで「原爆ドームの世界遺産化をすすめる会」発足。
10月 165万人を越える署名簿を添えて請願書を衆参両院議長に提出。
1994 平成6年5月 羽田孜首相閣僚懇談会で石田総務庁長官、熊谷官房長官へ登録の為の条件や要素を揃えよと指示。
29日衆議院文教委員会が全会一致で採択、次いで本会議でも採択されました。
1995 平成7年1月 文化庁の諮問を受けた‘近代の文化遺産の保存・活用に関する調査研究協力者会議’が史跡対象を“第二次世界大戦終結ころまで”へと枠を広めるように諮問。
5月 原爆ドームの史跡指定。
9月 世界遺産への推薦が決まりました。
文化庁推薦理由: 人類史上初めて使用された核兵器の惨禍を如実に伝えている。時代を超えて核兵器の究極的廃絶と世界の恒久平和の大切さを訴え続ける人類共通の平和記念碑である。
遺産の範囲: 原爆ドームの敷地0.39ha。
世界遺産条約で設置義務がある緩衝地帯(バファーゾーン)は平和記念公園全体を含む42.7haとなった。
広島市は「美観形成要綱」(原爆ドームと平和記念公園周辺の建物のデザインや色を指導する)を制定。
1996 平成8年6月 中国地建が原爆ドーム対岸の元安川に親水護岸を整備。
12月 5日登録決定。
2006 平成18年 高層マンション建設で世界遺産リストから登録抹消されるのではとの問題が出ました。
「美観形成要綱」をつくったものの建物の高さ制限がなかったことがこの問題に大きく影響していました。
裕編集関連頁:「原爆ドームと高層マンション工事など」   「高層マンション工事と原爆ドーム」

ユネスコ:
(UNESCO)

United Nations Educational , Scientific and Cultural Organization
国際連合教育科学文化機関。教育・科学・文化を通じて国際協力を促進し、世界の平和と安全に貢献することを目的とする、国際連合の機関。1946年発足、日本は1951(昭和26)年加盟しました。

アウシュビッツ:
(Auschwitz)

ポーランド南部の都市オシベンチムの独語名。第二次大戦中、ナチス-ドイツにより強制収容所が作られ、多数のユダヤ人や捕虜が虐殺されました。

危機遺産:

世界遺産委員会によって危機遺産(世界遺産条約第11条4項など)と認定された物件は、「危機にさらされている世界遺産リスト」(危機遺産リスト)に加えられます。
危機遺産は、脅威が去ったと判断されれば危機遺産リストから除外されますが、逆に危機にさらされた結果、世界遺産としての価値が失われたと判断された場合は世界遺産リストから削除される可能性もあります。
高層ビル建設の計画が持ち上がり、景観の保持が困難になる恐れがあるとして危機遺産に登録された独・ケルン大聖堂の例があります。登録後に計画の見直しや緩衝区域の設定などが行われ、景観が守られたとして2006年に危機遺産登録から解除されました。



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