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岩佐うた子 |
戦死せし吾子の命日墓参してそのまま母も永久に帰らず |
大島良造 |
原爆忌鷹匠町の屋敷跡に合掌したる日も遠く過ぐ |
大畠みちゑ |
むなしくを生きてはならぬ原爆に逝きたる父の命おもえば |
加川イツ子 |
学童の一群ここに焼きしといふ四方より小さき骨を拾ひぬ |
繰田富士子 |
一瞬に死の街となり音絶えしわが住みなれし家も焼けたり |
小池葉子 |
過去帳の数に入りにし父と弟安かれと慰霊碑に来りおろがむ |
小島繁子 |
ケロイドの癒着の皮膚のある限り八月六日への怒りは続く |
佐藤居子 |
一閃のきはみに乙女六百が焼かれ君が代うたひて逝きぬ |
重森君子 |
夏来れば悲しみ深く原爆のケロイドの身を装ふことなし |
末次花子 |
川岸に仰臥のまま見たり命ある吾娘の焼かるる燃え盛る炎を |
澄川千鶴子 |
轟音のひゞくやいなやとばされぬ阿鼻叫喚の日赤の庭に |
高野鼎 |
妻子六人むごく死なせし原爆の深き傷跡今に癒えざる |
田村照子 |
原爆の熱線に皮膚焼けたれて甥はやうやく帰り来たりぬ |
照沼みどり |
ほこり立つ島べに草の芽つみし日よ被爆の孤児らの糧になさんと |
富吉一郎 |
瓦礫死臭の道昇りてたどりつけば荒菰の上に呻く被爆者 |
中島恵美子 |
とりとめもなく口ばしる群集に巻きこまれわれも右往左往す |
西原重代 |
後前さだかならぬまでに焼けただれ口とおぼしきがかすかに動く |
早渕悦子 |
原爆を呪ふ叫びの耳朶打ちて碑の前にわれ涙とまらず |
松野囿子 |
昇華しゆく悲しみといへどわが病めば火魔に果てたるうから恋しも |
松本康子 |
腰の辺に僅かに肉塊残すのみにかの原爆に父は焼かれき |
御園光子 |
原爆忌近づきたれば被爆の妹ぬけ毛におびえし顔のまた浮く |
三宅東祐 |
のたうちて家にたどりし姉ならむ仏間辺りにお骨をひろふ |
宮本知司 |
あつき血よもえよ流れよ汝がはだに今ぞ別れの頬ずりをする |
三好小夜子 |
被爆して帰らざりにき親思ふこゝろの厚き弟なりしが |
村上安恵 |
医務室に藤田あき子と記されし遺体は正しく吾子文子なり |
安田義孝 |
焼けし街をよろよろ過ぎる少年の皮膚ただれをりひるみてみつむ |
山本紀代子 |
生きながらからだ焼かれて帰り来し子をほめやるもいまはの際に |
山本孝子 |
三十三回忌読経の声を聞きながら吾子逝きし日の面影しのぶ |
山本玄子 |
真夏日の熱気に耐へてゆく焦土不意に遇ひたり死体の山に |
山本チエノ |
崩れたる兵舎の下敷となりし兵の声忽ちに火勢に消えぬ |
横山八重子 |
被爆せし父は気骨の失せたるか黙しがちなる放心の日々 |
脇本品代 |
幾万の被爆者うめきしこのあたり今日人もなく清き川の面 |
山本康夫 |
呻きあげて転べる兵の群れを縫ひ吾子の骸を運びゆきたり |